2017年7月14日金曜日

伊香保の登山下稽古(七月十四日)

 十四日、夙起。七時出発。まず二ツ嶽山腹の風穴を過ぎ、また蒸し風呂の跡を見る。風穴は、清涼の気が洞中から噴出し、蚕種貯蔵所が設けられている。一歩一歩山懐に入り、路我楽目嬉温泉に到る。冷泉を沸かして浴客を迎えている。皮膚病に特効ありという。温泉宿はただ二軒あるばかりだ。前程は、だんだん山路らしくなり、爪先上りどころでなく、流汗を拭う手も忙しく上下し、覗き岩で一息入れて、やがて目差す伊香保富士へと登り詰めた。近く遠く両野総武の連山平原を打ち眺め、浅間の噴煙を顧み、錦嚢に麗句のかけらを拾い込む詩人の苦労は吾事でない。暢気に少憩して、湖水の対岸に下り、湖畔亭で午餐をしたため、しばらくは労れた足を踏み伸ばした。山容水色、奇ならず、凡ならず、涼気湖面を渡って来る長閑の境地も、時に黒風白雨一たび到れば、驚波山骨を震撼し密雲を呑吐するのだ。鱒が何尾釣れる釣れぬは何うでも可、干ばつに雨乞いのお水をここの湖神から頂いて行くお百姓さん達の古い行事は馬鹿げてるなむに意義がある。下山は榛名路を取り、午後四時帰着した。前回よりは二里を増したが、疲労の程度はさして別がない。