十六日、朝七時半出発。吾妻川に沿って遡り、岩井堂の岩を見物した。吾妻川の水は薄く濁り、河床の砂礫も磊石も赤土色を帯びている。草津温泉が流入するためだという。敗血腐肉の難病の余毒も浮いて流れてくるか、翠黛の濃淡と照応せず、峡中の風趣悩ましげだ。途次、高崎水力の箱島発電所を視察した。箱島不動堂路を横に切れて六七町、老杉参差構る樹間からそうそうとしてほとばしる清流を直ちに貯水し、水路なしに鉄管でこれを発電所に導く。水量16個、落差300余尺、発電力300キロ、この建設費は10万円あまり。すなわち、1キロ約300円にあたる。水路土木工事の必要無くして、なおかつ1キロ300円を要すとは、小水力工事が比較的不廉不利であることを示すものである。私達にとっては大切な実学問である。山道をとって帰る。行程八里。今日は更に一里増した。路険難でないまても、上り下りの山坂八里は、一寸楽なものでないはずだが、まだかなり余裕があり、試練は上々の成績。私は自己の脚力に強い自信を得た。