伊香保の地は、山は深くないが、嵐気涼爽。三五里を半径とする圏内には、名山景勝のそぞろに遊心を促すところがあり、起伏もまた険しすぎず、夷に失せず、上下運動の足ならしには丁度注文向きである。十二日朝十時、私は予習の第一歩をあげた。水沢の観音から、山径を踏んで、船尾の瀧一名、入の瀧に到って一服し、裏山の攀路を取って水沢山に登った。頂上の右寄りに巨岩が突出して、通せん坊をやっているので、今一息のところで残念ながら絶嶺を極めかけて下山した。途中、見晴山で少憩し、四顧の展望をほしいままにして薄暮帰宿した。行程五里。一浴して軽微な疲労を払った心地は何ともいわれぬ爽かさである。